龍笛は雅楽に用いられる管楽器で、1300年程前に中国から日本に渡ってきました。
それから現代に至るまで形を変えずに伝わり、演奏され続けています。
長い年月人々に愛されてきた竜笛は、歴史上の人物と共に登場してくることもあります。
歴史上の人物に憧れて龍笛を始めた、という方も少なからずいるようです。
今回は、そんな龍笛が歴史の中に登場した場面を探してみました。
安倍晴明のお友達?源博雅の「葉二」
映画「陰陽師」で、安倍晴明(あべのせいめい)の友として描かれ、龍笛を吹いていたのは源博雅(みなもとのひろまさ)です(清明と博雅が実際に友人だったかは定かではありません)。
実は、博雅は龍笛だけでなく箏、琵琶、篳篥、等楽器全般を得意としていました。
また、作曲もしていて、博雅の作った長慶子(ちょうげいし・ちょうげし)という曲は現在でもよく演奏されます。
もし、まだ陰陽師をご覧になっていなかったら、ぜひ視聴してみて下さい。映像だと本とは違い”音”も楽しめるので大変オススメです♪
さて、それでは、博雅の龍笛のお話をご紹介します。
【鬼の笛】
源博雅が、月の夜に朱雀門で一人で笛を吹いていると、素晴らしい笛の音が聞こえてきた。
不思議に思って音の方へ行ってみると、見知らぬ男が笛を吹いていた。
博雅とその男は、何も言わずただ笛を吹き続けた。
…突如セッションが始まったわけですね。
上手い人が言葉を交わさず音楽で会話をするって、今も昔もかっこいい!
その夜以降も、月夜のたびに二人は一緒に笛を吹いたが、言葉を交わすことはなかった。
ある晩、博雅はその男と笛を交換して吹いてみた。
その笛の音はこの世のものとも思えないほど素晴らしいものだった。
その後も二人は何度も一緒に笛を吹いたが、交換した笛はそのままになってしまった。
博雅が亡くなってから、浄蔵という笛の名人が再び朱雀門の前でこの笛を吹いたところ、門の上から「やはりその笛は良いな。」という声が聞こえてきて、初めてこの笛が鬼の笛だということが分かった。
この笛は葉二(はふたつ)と名付けられ、天下第一の笛となった…
博雅の竜笛、葉二はなんと鬼と取り換えっこした笛でした!
平安時代は鬼も素晴らしい笛を吹くなど、とても雅ですね。
しかし、鬼と言うからには、人に何か災いをもたらす存在なのでしょうが、博雅の笛の腕前と、音楽の事となると他の事が目に入らなくなるような人柄に、鬼も毎晩セッションを楽しむことにしたのでしょう。
博雅が最初に持っていた龍笛もかなりのものだったと思うのですが、それは今は鬼が持っているのですね…その笛も気になります!
平家物語の笛の名手!平敦盛の「小枝」
武将の中でも、とりわけ笛の名手として名高いのは平敦盛(たいらのあつもり)です。
平家物語の一の谷の合戦に、敦盛の最後が描かれています。
この場面は、歌舞伎と文楽では「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」として、能では「敦盛(あつもり)」として、描かれています。
数々の古典で取り上げられている有名でドラマチックなお話ですので、ちょっとあらすじをご紹介します。
平家物語・敦盛の最期
場所は一ノ谷(現在の兵庫県神戸市)。
源氏方の武将・熊谷次郎直実は、舟で逃げようとする平氏の武将を打ち取るため、海岸で敵を探していた。
すると、いかにも立派な身なりの武将が、逃げようとして海に馬を乗り入れているのを見つけた。
…この人が敦盛です。
直実が「あなたは大将軍ではないのか?敵に後ろを見せるのは卑怯だろう!戻って来なさい!」と声をかけると、敦盛は馬を返して戻ってきた。
…挑発に乗ってしまったんですね…。
そんな敦盛を、直実は馬から組み落とし、首を斬ろうとかぶとをあげると、16歳か17歳位の若武者。
薄化粧もしていて、ほんとに美しい青年だったので、もうどこに刃を立てたらいいのかわからなくなり、直実は困ってしまった。
直実:「あなたはどのようなお方ですか?お名乗り下さい。助けて差し上げましょう。」
敦盛:「お前は誰だ。」
直実:「取るに足りない者ですが、武蔵国の熊谷次郎直実と申します。」
敦盛:「では、お前には名乗らぬ。だが、お前のためにはよい敵だぞ。私の首を取って、周りの者に問え。私を知っている者がいるであろう。」
…海に逃げようとしてたし、戦闘経験ゼロであっという間に組み伏せられたりしたけど^^;
死ぬ間際に潔いこのセリフ、そして美形!かっこいい!
直実は若武者のこの堂々とした態度に感心し、助けたいと思った。
しかし、源氏の軍勢が後ろに迫って来ており、逃がすことは不可能とさとった直実は、泣く泣く敦盛の首をはねたのだった。
直実が敦盛の首を包もうとした時、錦の袋に入れた笛を腰に差しているのを見つけ、
直実は明け方に聞いた笛の音を思い出す。
直実:「ああ、あの笛を吹いていたのはこの方だったのだ!今、沢山の人が戦っているけれど、戦場へ笛を持ち込んで吹くような、優雅な方は他にはいないだろう…。」
平家物語に登場したこの笛が龍笛で、名は「小枝(さえだ)」と言います。
そして、現在でもこの笛は存在しています。
兵庫県神戸市の須磨寺の宝物館に展示されているそうです。
敦盛が吹いていた笛、見てみたいです!
笛と言えばこの人!牛若丸の「薄墨の笛」
月の夜に遠くから近づいてくる笛の音。
音の方をよく見れば、五条大橋の向こうから狩衣の袖をなびかせた美少年・牛若丸がこちらにやってくる。
その前に突然立ちはだかり、長刀を振るう大男・弁慶。
しかし牛若丸はそれをひらりひらりとかわし、ついには弁慶をやっつけるのでした…
昔話の「牛若丸」のお話の一場面です。ご存じの方も多いと思います。
牛若丸は、武将の中でも大人気の源義経(みなもとのよしつね)の幼少の頃の名前です。
この義経が愛用していたと伝えられる笛は、「薄墨の笛(うすずみのふえ)」という名前です。
この笛も現存していて、静岡県にある鉄舟寺というお寺が所蔵しています。
800年以上前のものとされるこの笛ですが、400年前には修理したという記録も残っています。
しかもこの笛、なんと今でも演奏することができるのだそうです!
2017年には演奏会も開催されています。
どんな音がするのか、是非聞いてみたいものです!
歴史に名を残す龍笛
龍笛が歴史の上に登場した場面を探してみましたが、どの笛もとても魅力的でした。
現在でも存在している龍笛もあって驚きです。
龍笛がとても大切に扱われていたことが分かりました。
これからも、大切に受け継がれていくといいなと思います。