日本の伝統音楽の中で、最も古い物の一つが雅楽です。1200年以上の歴史がありますが、当時の姿を留めたまま現代に伝わっているところが魅力です。
雅楽なんてあんまり馴染みがないなぁと思われるかもしれませんが、神前式結婚式や初詣、もっと身近なところではテレビの和風な場面のBGMとして、よく雅楽が使われています。
なんとも雅な感じがする神秘的な音楽です。
でも、曲を耳にすることはたまにあっても、楽器や演奏を目にする機会はほとんどないと思います。
この記事では、
雅楽ってどんな楽器で演奏されているの?
1200年前の音ってどんな音だろう?
雅楽器にはどんな種類があるの?
などなど、雅楽器の種類やその魅力についてお話ししていきます!
雅楽は世界最古のオーケストラ
雅楽は意外にもたくさんの楽器で演奏されています。世界最古のオーケストラとも称されます。
まず、メインになる楽器は、笛。
雅楽器の中では《吹物(ふきもの)》と言われ、こちらが3種類あります。
・笙(しょう)
・竜笛(りゅうてき)
・篳篥(ひちりき)
とりあえずこれがあれば、雅楽が演奏できます。
それから、雅楽器の中で《弾物(ひきもの)》と言われる弦楽器が2種類。
・楽琵琶(がくびわ)
・楽箏(がくそう)
最後に、《打物(うちもの)》と言われる打楽器が3種類あります。
・鞨鼓(かっこ)
・太鼓
・鉦鼓(しょうこ)
基本はこんな構成です。
しかし、雅楽器には他にもまだまだ種類があります。ざっと紹介しますね。
《吹物》
・高麗笛(こまぶえ)
・神楽笛(かぐらぶえ)
《弾物》
・和琴(わごん)
《打物》
・笏拍子(しゃくびょうし)
・大太鼓(だだいこ)
雅楽器って意外と多いですね。
これらの楽器は全部いちどに演奏するのではなくて、
・どの国由来の曲を演奏するか
・合奏だけか/舞があるか
によって、使う雅楽器の種類が違います。
ところで今、「どこの国由来の曲を演奏するか」と言いましたが、雅楽は実は純日本製の音楽ではありません。そのほとんどが大陸から渡ってきた音楽です。
同じく雅楽器も、多くは大陸からやってきたもので、日本古来のものは、神楽笛、和琴、笏拍子です。なんか意外な気が…。
でも、「竜笛」の名前についている「竜」は、中国の霊獣だから、いかにも中国っぽいし、「笙」の別名「鳳笙」の「鳳」も、中国の伝説の鳥「鳳凰」のことです。そういわれて聞いてみると、なんか外国っぽいような気もしてきます。
雅楽器の種類とそれぞれの特徴
それでは、メインになる楽器について、詳しく解説していきます!
《篳篥》
篳篥(ひちりき)は、とても小さな縦笛です。
楽器の構造としてはオーボエに近いです。長さは18センチ位ですが、ものすごく大きい音がします。
音の感じ方は人それぞれだと思いますが、雅楽がとても流行っていた時代に、実際に聞いていた人の感想を引用してみます。清少納言(枕草子)です。
「篳篥は、とてもうるさい。近くで聞きたくもないし、下手に吹いたのなんかはとても憎たらしい。」(筆者意訳)
…ひどいよ、清少納言。単に清少納言が篳篥を嫌いだったとしか思えません。
実際、篳篥の音はすごく大きいし、吹いてる人の加減で音がだいぶ変わりますが、そんな悪い音ではありません。というか、人間らしくてそこがいい!と思います。
それに、雅楽では主旋律、メインボーカルの担当です。
雅楽の曲を聞いて、一番最初に心に残るのがこの篳篥の音だと思います。
《竜笛》
次は竜笛(りゅうてき)という、40センチ位の横笛です。
楽器の構造としてはフルートに近いですが、基本的には竹に穴をあけただけのとても簡素な作りです。
演奏者の息の強弱で、オクターブ違いの音が出ます。
では、また清少納言の感想を聞いてみます。
「竜笛は、とってもいい!遠くから笛の音が聞こえてきて近づいてくるのも、近かったのが遠くなって、かすかに聞こえてくるのも素敵…。懐に差し入れて持っていても、すごいおしゃれ!」(筆者意訳)
…清少納言は笛がお好きなようです。多分笛の上手な人と付き合ってたんだと思います(この後、それを匂わせる文章が続きますので、ご興味のある方は是非「枕草子207段」をお読みください)。
さて、雅楽の中で竜笛は、メインボーカルの篳篥に対してコーラスという感じです。
というのもメインの篳篥、大きな音で情感たっぷりに歌い上げるんですが、音域が狭く1オクターブ程しか出ません。
そこで、それを補うように音を上へ下へと自在に飛び回り、主旋律を装飾します。
あと、清少納言もおっしゃってるように、おしゃれです。横に構える姿もかっこいいです。
《笙》
最後に笙(しょう)です。
高さが50センチ位で、一番下に両手で抱えて隠れる程のお椀があり、そこにリードのついた細い竹を綺麗に並べて差した形をしています。
楽器の構造としてはパイプオルガンが近いです。
笛としては珍しく和音が出せますが、西洋音楽では不協和音とされる音の重なりです。
でも笙が奏でると、この不協和音が神秘的な美しさになります。
ついでなので清少納言の感想を聞いてみます。
「笙は、月の明るい晩に、牛車でふと聞いたのは、とてもいいわ。でも、大きくて、なんだか扱いにくそう。どんな顔して吹いてるのかしら。」(筆者意訳)
…そうですね。的を射てますね。
笙は、雅楽の中では伴奏を担当します。
楽器の構造上吹いても吸っても同じ音が出るので、音楽の間中、ずっと途切れることなく和音を奏で続けます。とても神秘的な楽器です。
でも、清少納言も言っているように、とても扱いにくい楽器でもあります。
まず、吹く時、顔の真正面に持つので奏者の顔が見えません。
それと湿りやすいリードを乾かさないといい音が出ないので、火鉢か電熱器の上で常にあぶり続けなければなりません。演奏の合間でもです。夏は地獄です。笑
でも笙は、雅楽の吹物の中で、他の楽器をリードする最も重要な役割をになっています。
以上がメインとなる吹物です。
これに打物(打楽器)と弾物(弦楽器)が加わって、フルオーケストラになります。
雅楽器が表現する1200年前の世界感
実はこの3つの吹物の雅楽器は、音色や楽器の姿形などから、雅楽の世界観を表していると言われています。
笙が天から差し込む光、篳篥が地にいる人々、竜笛が天と地の間(天地を駆け回る竜)です。
私はこの話を聞いた時に、雅楽器の音のイメージに本当にピッタリだと思いました!
あなたはどう感じましたでしょうか?
もしも雅楽を耳にする機会がありましたら、1200年前の世界を想像しながら聴いてみてくださいね。