ある日、筆者が行きつけの喫茶店で、支払いをした時のお話です。
「旧一万円札はご利用できません」という張り紙を見つけました。
張り紙には大きく厩戸皇子(聖徳太子)が描かれた一万円札がありました。
懐かしさとともに、過去の紙幣に描かれた人物が気になり始めた筆者。
紙幣に描かれる人物って、どうやって選ばれるんだろう?
紙幣の人物に選ばれるって、やっぱり理由があるのかな?
と思った方もいると思います。
そこで今回は、紙幣と人物の関係と理由について調べてみました☆
明治維新で「円」が誕生!
明治4年(1871年)、新政府は貨幣制度を統一するために「新貨条例」を制定しました。
江戸時代末期まで長く使われてきた金や銀、両から「円」という単位に。
その翌年、明治5年に発行された新紙幣が「明治通宝」です。
円札と銭札が作られましたが、紙幣に人物は描かれていませんでした。
この頃の日本には、紙幣の印刷技術がなく、ドイツで印刷をお願いしていたんですって☆
日本紙幣に初めて人物が描かれた!
「明治通宝」に偽造が多発したことをうけ、明治14年(1881年)に、お札のデザインを一新しました。
紙幣の贋作対策として、人物を描くことにしたのです。
初めて紙幣に描かれた人物が「神功皇后(じんぐうこうごう)」です。
神功皇后は新羅を征討したとされる女性で、日本神話に登場する方です。
選ばれた理由は、国民に神功皇后の名を知ってもらうためだとか。
全国で統一された紙幣が使われるので、確かにお顔は覚えますね。
ただし顔だけなので「誰?これ」となったかも。
しかも描いたのはイタリア人だったので、何となく欧米人風です(笑)
ちなみに皇后は描かれても、天皇は描かれていないんですよ。
なぜ天皇が紙幣に描かれないか、興味がある方は以下の本がお役に立つと思います♪
旧拾円券はネズミのご飯!?
明治15年(1882年)に日本銀行が設立されました。
そして、明治18年(1885年)に「日本銀行兌換(だかん)銀券」が発行されます。
兌換(だかん)銀券って、聞き馴染みがない言葉ですよね。
兌換(だかん)銀券というのは、銀貨と引き換えのできる紙幣です。
1円、5円、10円、100円札が発行されたんですよ☆
中には、ネズミにかじられる被害に遭うお札も・・・。
原因は、強度を増すために使ったこんにゃく粉でした。
泥棒ではなくネズミとは驚きのエピソードですね。
伝承上の人物から歴史上の人物へ
ネズミにかじられた後には、改造券と呼ばれる券種が誕生しました。
今の時代に「改造券」などといったら、おまわりさんが飛んできちゃいそうですが。
明治21年(1888年)に発行された改造1円券は「武内宿禰(たけのうちのすくな)」が描かれました。
なんと、300年近く生きたと人物と伝わっています。
ヾ(ーー ) ォィォィ 300年って。
1910年に登場した紙幣には下記の人物が描かれました。
・乙10円券 → 和気清麻呂(奈良時代から平安時代にかけて活躍した官僚)
・乙20円券 → 藤原鎌足(大化の改新の中心人物)
・乙100円券 → 聖徳太子(十七条憲法を作った人)
1930年には菅原道真が加わります。
・丁5円券 → 菅原道真(学問の神様として大宰府に祀られている人)
1942年からは武士も登場します。
・い5銭券 → 楠木正成(後醍醐天皇を助けるため、幕府軍と戦った)
そしてなぜか「塔」も描かれました(笑)
・い10銭券 → 八紘一宇塔(日本書紀に書かれたことば)
戦争と共に迷走する日本紙幣の絵柄
1946年になると、人物だけではなく、植物や鳥が描かれることもありました。
・A5銭券 → 梅
・A10銭券 → ハト
・A10円券 → 国会議事堂
・A1円券 → 二宮尊徳(二宮金次郎)
この時代はまだ「銭」という単位があったんですね☆
やっと人物に落ち着いた戦後の紙幣
1950年からはようやく日本の紙幣も人物の柄に落ち着きました。
新しく登場したのは、以下の人物です。
・B50円券 → 高橋是清(日本銀行総裁、内閣総理大臣を務めた)
・B100円券 → 板垣退助(自由民権運動の主導者)
・B500円券 → 岩倉具視(日本の近代化を推し進めた)
この頃は、肖像や図柄もGHQの認可が必要だったそうです。
戦後の高度成長期、昭和の紙幣
1963年には、伊藤博文が紙幣に描かれました。
・C1000円券 → 伊藤博文(初代内閣総理大臣、大日本帝國憲法を制定)
昭和の長い期間、次に紙幣が刷新されるまでは以下の人物が使われ続けました。
・C500円券 → 岩倉具視
・C1000円券 → 伊藤博文
・C5000円券 → 聖徳太子
・C10000円券 → 聖徳太子
5000円と10000円札が同じ「聖徳太子」だけど、間違わないの?と思うかもしれませんね。
実は、お札の大きさを違えることで、識別しやすいよう工夫されているんです♪
まだまだ続く紙幣刷新(昭和から平成)
1984年、全ての紙幣の人物が刷新されました。
・D1000円券 → 夏目漱石(明治から大正時代の文豪)
・D5000円券 → 新渡戸稲造(初代国際連盟事務総長)
・D10000円券 → 福沢諭吉(慶應義塾大学の創始者)
そして西暦2000年、またしても謎のお札が発行されました。
はい、2000円札です。
しかも人物ではなく建物。
・D2000円券 → 守礼門(沖縄首里城の外門)
かろうじて裏面は「源氏物語」の紫式部で、人物ですが、なぜ表面にしなかったのか不思議ですね☆
平成に活躍した紙幣、そして令和へ
2004年からは以下の紙幣に落ち着きました。
・E1000円券 → 野口英世(黄熱病の研究者、福島県出身の医学博士)
・E5000円券 → 樋口一葉(明治時代の小説家、歌人。代表作は「たけくらべ」)
・E10000円券 → 福沢諭吉
そして2024年、全てのお札が一新されます。
・1000円券 → 北里柴三郎(破傷風菌血清療法、ペスト菌発見、北里研究所設立)
・5000円券 → 津田梅子(語学・女子高等教育に尽力、津田塾大学創立)
・10000円券 → 渋沢栄一(近代日本経済の父、日本に初めて銀行を作った人)
さて、ここまできて、お気づきでしょうか?
昭和、平成、令和と時代が進んでいる中、お札の人物は「明治」に活躍した人が多いことを。
日本の紙幣の要は明治維新
江戸時代から現代の基盤となる新政府誕生は、歴史上大きな変革でした。
特に経済の面では、武士と商人との身分や隔たりをなくし、大きく成長した時代です。
紙幣の人物が選ばれる理由は、明治に活躍した人物と大きな関係があるようです。
キャッシュレスと言われる時代ですが、新しいお札を手にしたら、よく観察してみたいですね☆
これを機に幕末の歴史を辿ってみてはいかがでしょうか?